定山渓の人々 #003
定山渓の温泉
鹿の湯グループ代表取締役社長
金川 浩幸さん
歴史ある旅館の4代目として今後の定山渓の発展のために挑戦し続ける、鹿の湯グループ代表取締役社長 金川 浩幸さんにお話を伺いました。
美泉定山が開湯した湯治場
定山渓温泉は、慶応2年(1866年)に岡山の修験僧・美泉定山(みいずみじょうざん)が、北海道開拓で病に苦しむ人々のために湯治場を開いたことから始まります。当時は札幌より小樽の方が栄えていたので、定山は物資の調達を小樽の方から行っていたようですね。この地の最も古い記録は1858年に松浦武四郎が立ち寄ったというものですが、定山が開湯した1866年が始まりで今年(2022年)は156年目となります。
ここで一番古い宿は定山渓ホテル(2022年7月現在休館中)で、鹿の湯は3番目(現存では2番目の古さ)の開業です。当時定山渓には自然湧出していた大きな源泉が3つあり、上流から上の湯、中の湯、下の湯とありました。当館が有している下の湯は、野生の鹿が傷を癒していたと言われていたことから、北海道庁の初代長官 岩村通俊が「鹿の湯」と命名しました。
明治28年(1895年)に札幌の名士が集まり出資したことで「鹿の湯寒翆閣」ができました。現在の鹿の湯は1927年の創業ですが、寒翆閣の時代から数えると130年近く経っています。私で4代目になりますが、初代は札幌の北海道大学の近くで銭湯を営んでいた際に、定山渓で湯守りをしないかと誘われたことがきっかけで、定山渓に来たと聞いています。札幌の名士たちが出資をしていたこともあり、当時としてはかなり豪華なしつらえで洗練されたサービスだったようですね。
良質であり豊富な湯量が魅力
定山渓温泉は、無意根山を中心とした山々の水から来ていると昔から言われていて、山岳地系の森から地中へしみ込んだ地下水が温泉の源と考えられています。定山渓の真下にあるマグマ溜まりで温められ、地下の裂け目をつたって温泉が湧き出てくる。こういったいくつもの恵まれた条件が重なってできた資源です。
泉質は、「ナトリウム塩化物泉」で、日本の温泉ではポピュラーなものですが、湧出量は日本屈指でその量は毎分8600ℓ。川岸や川底にある岩盤の割れ目から今もなお自然湧出しています。湯量も源泉数も豊富なことから定山渓にある全ての宿が自家源泉です。これは全国的にも珍しいですね。
この周辺には、定山渓温泉の他に豊平峡温泉、小金湯温泉、薄別温泉があります。それぞれ成分が違う温泉がいくつもあり、こんなに近いエリアに性質の違う温泉が楽しめることも定山渓の魅力のひとつだと思います。
日本の大切な文化である温泉
私のおすすめは、宿に滞在中3回は温泉に入ってほしいですね。チェックインをしてお部屋に入られて、まずは旅の疲れで血糖値が下がらないようにお部屋に置いてあるお茶菓子を食べ、お茶を飲んだら1回目の温泉へ。その後は夕食を食べて温泉街の散策などを楽しんでから寝る前に2回目の温泉。夜はまた景色が変わってくるんですよね。寝る前なのでぬるめのお湯にゆっくりと入ることで副交感神経が働いてリラックスします。(鹿の湯は熱めとぬるめのお湯があります)翌朝の3回目は逆に熱めのお湯に入り、交感神経をギュッと高めて1日の活性を促す。せっかく宿に泊まるのですから、たっぷり、ゆっくりと温泉を楽しんでもらいたいです。
それから、私は温泉の大浴場が好きなんですが、その理由は大企業の社長さんも小さな子供もみんなが同じお風呂に一緒に入れるからです。こんなに誰しもが平等な状態はなかなかないんじゃないかと思うんです。今は部屋風呂などもありますが、私は基本的には日本の温泉の文化は大浴場のようにみんなで入ることだと思っているので、その日本の文化を大切にしたいですね。
一時期社員旅行が減っていましたが、最近また少しだけ増えて来ています。改めてコミュニケーションの場は、積極的に作らないといけないということを企業が感じ始めているのかもしれないですね。
今の定山渓は団体客も受け入れることができる宿と、個人客向けの宿があり、多種多様なお客様を迎えられるとても良いバランスになっていると感じています。
良い思い出を持ち帰ってもらうために
定山渓は昔から「温泉以外は何もない」と言われ続けてきました。そんな中、定山渓の若手青年部で考え最初に行ったイベントが、今も続く冬の「雪灯路(ゆきとうろ)」です。その後に、温泉街として夏に楽しめるイベントを行いたいと思い、私が趣味で行っていたJAZZ演奏のつながりで「JOZANKEI JAZZ TOWN」も定山渓で行いました。さらに開湯150周年を迎えた年からは、夕食後にも少し散策できる場所を作りたいという思いを、自然散策路を舞台にイルミネーションやプロジェクションマッピングで彩る「 定山渓ネイチャールミナリエ~JOZANKEI NATURE LUMINARIE」でカタチにしました。定山渓の国立公園の自然と水をテーマに自然の奥深さを体感できるようなものを作れたのではないかと思います。
今後も少しずつ整備されていくと思いますが、現在開催中のルミナリエは二見吊橋までなのですが、その奥に行く散策路は森と山と川が楽しめて自然を満喫できる場所です。
夜はルミナリエ、朝は二見吊橋の奥まで散歩ができるコースをつくり、川のせせらぎと気持ちのよい森林を楽しめるように整えていきたいです。
定山渓という場所にお客様ご自身が投資をして楽しみに来てくださっているので、我々はしっかりと良い思い出として持ち帰ってもらうためのベースづくりをしたいと思っています。
定山渓の温泉
鹿の湯グループ代表取締役社長
金川 浩幸さん
定山渓で現存では2番目に古く、源泉「鹿の湯」を有している老舗「ホテル鹿の湯」の4代目。子供のころから先々代の祖父と一緒に定山渓に訪れ、大学卒業後からは「鹿の湯グループ」に入社。定山渓温泉街の活性化を目指し活躍している。
ホテル鹿の湯
TEL 011-598-2002
公式サイト